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2025
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凜中
「中里、お前まだあの人と繋がるつもりかよ? はっ……モグリだぜ、お前」
嘲笑と侮蔑を含んだ言葉を中里に投げてきた男は、そう言ってその話題を終わらせてしまった。
最初は全く逆のことを言っていた癖に、「あの人」が普通の状態でなくなったと知るや否や、態度をころりと変える……いい性格をしているものだ。
中里がR32を買った頃は、「あの人に挨拶もなしに32転がしてんのかよ。モグリだぜ、お前」と今とは全く逆のことを言っていたのに。
中里はその言葉に特に反論はせず、黙っていた。
北関東の、エリアもチームも越えたR32乗りの集会での、些細な出来事だ。
以前はこの集会には必ず顔を出し、他のR32乗りたちの輪の中心にいた「あの人」が姿を現さなくなって、どれ位の時間が経つだろう。
指折り数えても、かなりの期間になるはずだ。
家に引きこもっているだの、四国にお遍路に出ているだの、いろんな噂を聞いた。
「あの人」が表に顔を出さなくなった理由は中里の耳にも届いていたが、余りいい理由ではなかっただけに、集会でもそれに触れる人間はほとんどいないどころか、「あの人」は最初からいなかった、そんな扱いをされている。
夜も更けた埠頭はオレンジの街灯が辺りを照らす。
遠くで汽笛が聞こえる。
埠頭にはさまざまにカスタマイズされたR32が頭を並べ、オーナーも年齢層は幅広い。中高年層が多いのがこの車の特徴かもしれない。
中里はまだ若い方だ。が、いつかR32を買いたい、という未来のオーナーを夢見る高校生たちも、まだ免許もないのに集会に混じって、目当ての車の写真を撮影させてもらっている。
アイドリングをしている数台の音が低く唸りをあげている。
「……モグリ、か」
中里がこの集会に、わざわざ群馬くんだりから顔を出すようになったのも、そもそも、その「あの人」に挨拶をするためだった。
さっきの男が、諸事情によりR32に乗り始めた中里に対して、「北条凜に挨拶もなしに北関東でR32転がすなんざ、モグリもいいところだ」と言ったからだ。
同じR32オーナーだったさっきの男の伝手で、このオーナー集会に参加させてもらえるようになり、「あの人」こと北条凜に挨拶ができた。
その頃は駆け出しという枕詞が付いていたが駆け出しの医者だった「あの人」は、医者というだけだって知識も語彙も豊富で、人当たりもよかった。
乗り始めたばかりだという中里にも優しく接してくれた。
財布が寂しくてまだ買えないパーツを「中古でよければ」と気前よくタダでくれたこともある。
走りの腕前はとんでもなく上手だった。
彼の周りにはいつも周りに人がいた。
男として、走り屋としては、R32乗りとしては、エリアや所属するチームを超えて尊敬していた。
それが、随分前から表舞台には全く姿を見せなくなった。
オーナー集会で言われた言葉は、中里の心に楔のように突き刺さった。
それでも、会いたいという気持ちは、募るばかりだ。
会話の中で一度だけ聞いた家を、その時の話を頼りに訪ねたのは、件の集会の数日後のことだ。
『うち?●●の駅前だよ。郵便局が隣にあるマンションの一番上さ』
それだけの言葉を頼りに。
駅前のコインパーキングに黒い相棒を停め、徒歩で、郵便局が隣にあるマンションを探す。
スマートフォンはこんな時便利で、駅前の郵便局はすぐに見つかった。その隣のマンションも。スマートフォンにナビをしてもらいながら、中里は、集会の少し前にあったことを頭の中で反芻した。
北条凜に起こった『不幸』。
北条さんと付き合っていた女が自殺したらしい。
そんな話がまず聞こえてきた。
その後、具体的な断片が、峠を駆け巡った。
北条凜の目の前で女が首を吊っただの、後追いを図ったけれど死にきれなかっただの、人のうわさは勝手なものだ。
どれを信じていいのやらという位いい加減な噂ばかりだったが、真実は意外なところからもたらされた。
慎吾の家族だ。
「ああ、北条凜ってあの北条病院のでしょ? 知ってるわよ」
慎吾の家に遊びに行った時、ダメ元で聞いてみた慎吾の姉――看護師をしている慎吾の姉が、知っていた。
「あたしの看護学校時代の友達がそこで働いてるから。院長がすんごい車道楽なんだって」
ベントレーやハマーが病院の敷地内に並んでいて、受付の所には年代物のベンツが展示されているだとかなんだとか。
「知ってるんですか」「そりゃそうよ。何回も聞かされたもの」
時系列おかしいけど凜中。に、なる、ハズ。